コラム
佐々木竹見・王者の眼差し
佐々木竹見(ささき たけみ)
元川崎競馬所属騎手。“鉄人”の愛称で知られる国内最多勝記録・7,153勝をあげた日本を代表する名手。
現在は地方競馬全国協会の参与として騎手候補生である後進の指導を行うほか、競馬のPRのために各地のイベントなどにも出演している。
令和6年度第8回開催 鎌倉記念(SII) 他
10月7~11日の開催でメインとして行われたのは、地方全国交流の2歳重賞・鎌倉記念。鈴木義久厩舎のベアバッキューンが、町田直希騎手を背に逃げ切り大差圧勝。デビューから圧倒的な強さで連勝を4に伸ばしました。しかし後日、左前脚の剥離骨折が判明したのは残念でした。全治には半年ほどかかるようです。
8日の天王山賞は、縦長の最後方を追走したクリスタルスワンが豪快に直線一気を決め、1年5カ月ぶりの勝利となりました。鞍上は新原周馬騎手でした。
10日に行われた2歳馬による影武者賞は、好位追走からピンクタオルチャンが直線で抜け出しました。鞍上は4年半ぶりに短期免許で騎乗しているミカエル・ミシェル騎手でした。
今回はこの3レースについて、佐々木竹見さんにうかがいました。(聞き手・構成/斎藤修)
2024年10月9日(水)鎌倉記念
優勝馬ベアバッキューン
ベアバッキューンは、スタート後は町田騎手がほとんど仕掛けることもなく先頭に立ちました。他に行く馬がいれば2番手からでもよかったと思いますが、他の馬とはスピードが違いました。
道中はそれほど速くは見えないんですが、馬群は縦長になったのでペースは速かったのでしょう。ベアバッキューンにはそれだけスピードがあるということです。向正面でも行きたがるような素振りがありながら、町田騎手はしっかり折り合いをつけています。スタートして抑えながら徐々にスピードに乗せていったのがよかったと思います。スタートから仕掛けていったら掛かってしまったと思います。
普通なら3コーナーあたりで後続が差を詰めてくるところですが、うしろの馬たちはついてこられません。このあたりの加速も他馬と違っていました。直線でしっかり追ったこともありますが、最後の1ハロンではラップが上がっています。勝ちタイム(1600m=1分44秒3)はそれほどでもないように思えますが、この開催は時計がかかっていたことを考えると優秀なタイムです(前日の古馬B1B2特別より1秒以上速い)。前回より対戦相手が強くなっているはずですが、着差を広げて勝ちました。
怪我したことで来年のクラシックに間に合うかどうか、距離的には伸びても大丈夫だと思いますが、大井コースでも勝てるようなら本物です。どこまで強くなるか楽しみです。
2024年10月8日(火)天王山賞
優勝馬クリスタルスワン
勝ったクリスタルスワンは互角のスタートでしたが、新原騎手はすぐに下げて内に入れ、1コーナーを回るところでは最後方でした。
その1コーナーでは、先行勢は外から増田騎手のルヴェルリドーが主張して、内の町田騎手(リンクスエルピス)も抵抗したことで競り合いになってややペースが速くなりましたが、隊列が決まるとすぐに落ち着きました。結果的に、勝ったクリスタルスワン以外はほとんど前残りの決着でしたから、全体のペースはそれほど速くはありませんでした。
3~4コーナーでは先行している2頭とも手応えが楽で、この2頭で決着するような感じで、クリスタルスワンは4コーナーでもまだ後方でした。ただその4コーナーで3番手以下の馬たちが外に行ったため、クリスタルスワンはぽっかりと空いた内に進路をとれました。あそこで前の馬についていって外を回していたらおそらく届かなかったでしょう。それにしても直線では一気に伸びてきました。展開もはまりましたが、じっくり溜めて4コーナーで内を突いた新原騎手の好騎乗でした。
2024年10月10日(木)影武者賞
優勝馬ピンクタオルチャン
ピンクタオルチャンのミシェル騎手は、スタートしてすぐに好位の4番手につけました。外から来られても主張していい位置を取りに行ったのはよかった。あそこで引けば位置取りを悪くしてしまうところでした。
ミシェル騎手は、道中手綱をぐっと短く持っているところなども、日本の騎手は見習うべきと思います。川崎のきついコーナーでもラチからあまり離れずぴったりのところを回ってきます。直線では、逃げ粘る馬に馬体を寄せていって差し切りました。
ピンクタオルチャンは、デビュー戦を勝ったあとの2戦は惜しいところで勝ちきれませんでしたが、今回の勝利はミシェル騎手の腕でしょう。