コラム
佐々木竹見・王者の眼差し

佐々木竹見 プロフィール写真

佐々木竹見(ささき たけみ)

元川崎競馬所属騎手。“鉄人”の愛称で知られる国内最多勝記録・7,153勝をあげた日本を代表する名手。
現在は地方競馬全国協会の参与として騎手候補生である後進の指導を行うほか、競馬のPRのために各地のイベントなどにも出演している。

令和元年度第14回開催 エンプレス杯 他

3月2~6日の開催のメインは、牝馬によるJpnIIのエンプレス杯でした。勝ったのは、ここが引退レースとして出走したJRAのアンデスクイーン。鞍上はクリストフ・ルメール騎手でした。 そしてこの開催を最後に引退となる64歳の森下博騎手が4日の第9レースで勝利。自身のもつ地方競馬の最年長勝利記録を64歳10カ月に更新。地方通算では2676勝を挙げました。 5日、エンプレス杯のひとつ前に行われたB3級の大和撫子特別で、ドンゲイボルグを勝利に導いたのは山林堂信彦騎手でした。 今回はこの3レースについて、佐々木竹見さんにうかがいました。(聞き手・構成/斎藤修)

2020年3月5日(木)エンプレス杯

優勝馬 アンデスクイーン

斎藤
前に行きたい馬が何頭かいて、前半ハイペースとなりました。
竹見
抜群のスタートを切った左海誠二騎手(シークレットアリア)も行く気でしたが、内枠の吉原騎手(クレイジーアクセル)がハナをとったところで流れが落ち着くかと思いましたが、矢野騎手(サルサディオーネ)が競りかけて行きました。川崎2100mでは普通は流れが落ち着く3コーナー過ぎでもペースは速いまま。スタンド前の直線でこれほど縦長になるのはめずらしい。この距離でこれだけ競り合ったら最後までもちません。ただ、逃げて結果を残してきた馬たちだけに仕方なかったと思います。レースを引っ張っていたクレイジーアクセルとサルサディオーネは3コーナーで早々と後退してしまいました。
斎藤
勝ったルメール騎手のアンデスクイーンは、縦長の中団よりうしろからの追走でした。
竹見
これはルメール騎手のペース判断がよかった。もともと馬にも力があることは確かですが、慌てることがありませんでした。
斎藤
3コーナー過ぎでは、プリンシアコメータとラインカリーナが先頭に立ちました。
竹見
前半、前2頭とはやや離れた3、4番手を追走していたその2頭でもペースが速かった。それゆえ直線を向いて、アンデスクイーンが抜け出すのはあっという間でした。この展開になったら、後方で脚を溜めていた馬には有利です。前半のペースが速かったぶん、レースの上り(3ハロン)が42秒0、勝ったアンデスクイーンでも40秒4とかかりました。
斎藤
圏外の馬を別とすれば、上位に入った馬で上り最速は2着に入ったナムラメルシーの40秒ちょうどでした。
竹見
さすがにハイペースだったので、レース全体の上りは時計がかかりました。ナムラメルシーは格下からの挑戦でもあり、あまり人気もなかったので、御神本騎手は気楽に乗れたということもあったでしょう。直線勝負のナムラメルシーには、存分に能力を発揮できる展開になりました。

2020年3月4日(水)C1級三・四組

優勝馬 マイネルミシシッピ

斎藤
森下博騎手が現役最後の川崎開催で勝利を挙げました。
竹見
森下騎手が騎乗したマイネルミシシッピは、これまで櫻井光輔騎手が乗って、勝ちきれないレースが続いていました。いつ勝ってもおかしくなかった馬です。それで5番人気とは、意外に人気になりませんでした。
斎藤
森下騎手は外枠からの発走でしたが、内に入れて行きました。
竹見
4番手のラチ沿いは絶好位です。
斎藤
ただ3コーナー過ぎではまわりを囲まれてしまいました。
竹見
それでもすぐ前にいたミシェル騎手(エメラルドスピアー)の手応えが怪しくなって、4コーナーを回ったところで前2頭の外に進路ができました。直線では並ぶまもなく抜け出して、森下騎手の好騎乗でした。川崎コースではお手本のような最高のレースをしました。森下騎手は体が柔らかかったし、姿勢もよかった。最後の開催で勝ってよかったです。

2020年3月5日(木)大和撫子特別

優勝馬 ドンゲイボルグ

斎藤
勝った山林堂騎手のドンゲイボルグは後方からの追走でした。
竹見
スタートは互角でしたが、押してもあまり行けませんでした。前が競り合って流れが速くなったこともあったでしょう。
斎藤
それでもドンゲイボルグは向正面から早めに位置取りを上げて行きました。
竹見
向正面中間から仕掛けて、3~4コーナーではさらに勢いよくまくって行きました。4コーナー手前では先行した馬たちが一杯になったこともあって、一気に先頭に立ちました。
斎藤
先頭に立って、直線半ばからの脚色が際立っていました。
竹見
脚の使いどころがうまかった。山林堂騎手は自分で調教にも乗って、レースでもずっと手綱をとっているので、馬の脚質をよくわかっていたこともあったと思います。前半行きっぷりが悪かったぶん、後半に使える脚を生かすことができました。馬も強いレースをしましたが、これは山林堂騎手の騎乗を褒めるべきでしょう。