コラム
佐々木竹見・王者の眼差し

佐々木竹見 プロフィール写真

佐々木竹見(ささき たけみ)

元川崎競馬所属騎手。“鉄人”の愛称で知られる国内最多勝記録・7,153勝をあげた日本を代表する名手。
現在は地方競馬全国協会の参与として騎手候補生である後進の指導を行うほか、競馬のPRのために各地のイベントなどにも出演している。

令和4年度第7回開催 戸塚記念SI 他

9月12~16日の開催でメインとして行われたのは、3歳馬によるS1重賞・戸塚記念。二冠牝馬スピーディキックと東京ダービー馬カイルの対戦が注目となりましたが、スピーディキックが力の違いを見せて牡馬勢を一蹴しました。鞍上は、同馬に初騎乗となった山崎誠士騎手でした。  14日の3歳馬による梟(ふくろう)特別は、今野忠成騎手のマナリンリイが7番人気ながら直線の追い比べから抜け出しました。  15日、戸塚記念のあと最終レースに行われた恒例の川崎ジョッキーズカップを勝ったのも今野忠成騎手でした。騎乗したミュークレグルスは11番人気ながら、1番人気の山崎誠士騎手・イツハをゴール前で差し切りました。3着には岡村裕基騎手が入り、ベテランが上位3着まで独占となりました。  今回はこの3レースについて、佐々木竹見さんにうかがいました。(聞き手・構成/斎藤修)

2022年9月15日(木)戸塚記念

優勝馬 スピーディキック

 スタート後は4頭ほどが先行争いになりましたが、ショットメーカー(張田昂騎手)が先頭に立ってからはすぐにペースが落ち着きました。それでもスタンド前で極端にペースが落ちることもなく平均ペースでレースが流れ、勝ったスピーディキックは控えて中団、ラチ沿いでがっちり抑えての追走でした。  スピーディキックには初騎乗となった山崎騎手ですが、自信もあったのか、落ち着いて騎乗していました。  スピーディキックと同じように中団を追走していたカイル、羽田盃2着のライアンは、向正面から追い出しましたが、前をとらえるところまではいけませんでした。一方でスピーディキックは、3コーナー手前から位置取りを上げていく時の手応え、脚色がまったく違っていました。逃げていたショットメーカーを一瞬でとらえ、直線では楽に突き放して3馬身差。格が違うというような勝ち方でした。  逃げた張田騎手のショットメーカーはよく2着に残りました。3着のデルマアズラエルも先行勢の中の1頭です。前が残れる流れだったので、中団よりうしろにいた馬たちは見せ場をつくれませんでした。その展開を見ても、スピーディキックが1頭だけ力が抜けていたことがわかります。夏の休養を挟んでこの強さですから、秋になっての成長も楽しみです。

2022年9月14日(水)梟(ふくろう)特別

優勝馬 マナリンリイ

1番枠からフォルジョーの野畑騎手がハナを主張して、森泰斗騎手のブランコイラピドがこれを見ながらピタリと2番手。マナリンリイの今野騎手は、前の馬を見ながら5番手あたりを追走。森騎手が抑えきれない感じの手応えで先頭の野畑騎手を突いて早めにペースアップしたので、今野騎手は絶好の位置取りでした。1番人気のトニーロマンスは池谷騎手がスタート後に押して行きましたが、行き脚がつかず中団からになりました。  今野騎手は4コーナー手前で内にいて、前が壁になるような状況でしたが、直線を向いたところで先頭のフォルジョーの脚が上がって、その外にちょうど1頭ぶん、ぽっかり空いたところからうまく抜け出すことができました。道中では今野騎手より前にいた山崎騎手のリオンポラリス、さらに外を回した池谷騎手のトニーロマンスも直線では同じような脚色で伸びましたが、最後は4コーナーでのコース取りの差が大きかったと思います。池谷騎手は1番人気ゆえに大事に外を回したのは、しかたなかったと思います。

2022年9月15日(木)2022川崎ジョッキーズカップ第9戦

優勝馬 ミュークレグルス

1番人気の山崎騎手(イツハ)がすんなりハナをとって、うまくペースを落としました。今野騎手(ミュークレグルス)は13番枠からのスタートで、すぐに内に進路をとって後方から2番手。最初からそのコース取りを狙っていたのかもしれません。  今野騎手はペースアップした向正面でも外に持ち出さず、ラチ沿いから位置取りを上げて行きました。3~4コーナーでは勢いのある馬たちは外から仕掛けていきましたが、今野騎手はこの勝負どころでも内にこだわりました。4コーナーをまわるところで前の視界が開けて、直線では逃げているイツハをとらえるだけという完璧な競馬でした。  岡村騎手(ヤマニンバルトロ)がゴール前伸びて3着に入りましたが、今野騎手が通った最内とのコース取りの差は大きかったと思います。もし今野騎手も岡村騎手と同じように4コーナーで外を回していれば、先頭のイツハには届かなかったかもしれません。  1番人気のイツハに騎乗した山崎騎手は、逃げ馬として完璧なレースをしましたが、今回は今野騎手がそれ以上にうまく乗りました。ただ川崎の4コーナーは、内を狙うと完全に詰まってしまうこともあるので、その判断は難しいところです。うまくいっているときは、すべてうまくいくもので、今野騎手はこの開催、リーディング2位タイの6勝と乗れていました。  小林捺花騎手(イトシキオモイ)は好位につけて、積極的に人気のイツハを追走する形でいいレースをしました。ゴール前は岡村騎手に交わされて4着でしたが、4キロ減を生かして積極的に前に行くレースはいいと思います。