コラム
佐々木竹見・王者の眼差し

佐々木竹見 プロフィール写真

佐々木竹見(ささき たけみ)

元川崎競馬所属騎手。“鉄人”の愛称で知られる国内最多勝記録・7,153勝をあげた日本を代表する名手。
現在は地方競馬全国協会の参与として騎手候補生である後進の指導を行うほか、競馬のPRのために各地のイベントなどにも出演している。

令和3年度第2回開催 川崎マイラーズ 他

5月24〜28日の開催でメインとして行われたのは川崎マイラーズ。1番人気に支持された大井のモジアナフレイバーがスタートでの出遅れをものともせず、直線で抜け出し能力の違いを見せました。鞍上は、調教師試験に合格して引退した繁田健一騎手に替り、初騎乗となった大井の真島大輔騎手でした。 続く最終レースに組まれた2021川崎ジョッキーズカップ第4戦は、古岡勇樹騎手が単独先頭で直線を向きましたが、11番人気の田中涼騎手・シンキングポケットが差し切って波乱の決着となりました。 最終日の最終レースに行われたファイナルアンサー賞は、直線半ばから2頭の追い比べ。14頭立て最低人気の神尾香澄騎手が勝ったかと思う場面もありましたが、2番人気の伊藤裕人騎手・トライアンフがハナ差で勝利。3着に11番人気馬が入って、このレースも波乱の決着でした。   今回はこの3レースについて、佐々木竹見さんにうかがいました。(インタビュー・構成/斎藤修)

2021年5月26日(水)川崎マイラーズ

優勝馬 モジアナフレイバー

 モジアナフレイバーがスタートで躓いて出遅れ最後方からとなりました。さすがにこの出遅れでは無理だろうと思って見ていましたが、能力が違いました。  ファルコンビーク、ワークアンドラブという逃げ馬が2頭いて、競り合うことはなかったですが、その2頭が先行したのでペースが速くなりました。それが出遅れたモジアナフレイバーには味方になりました。  モジアナフレイバーの真島騎手は、向正面の中間あたりから位置取りを上げていきました。普通なら仕掛けるタイミングとしては早いのですが、出遅れたぶんがあったので、勝つには早めに行くしかないと考えたのでしょう。3コーナーから内に入れて追い出しを我慢したのはよかったと思います。直線を向いたところでは、うまく内から2頭目に進路ができて、そこから一気に伸びました。仮に4コーナーで馬群の大外を回してしていたら届かなかったかもしれません。  先行2頭も直線でよく粘っていましたが、モジアナフレイバーは残り100mを切ってから2頭をとらえると、そこから2馬身半もの差をつけて、力の違いを見せました。ほかの馬が上り39秒台以上かかっているところ、モジアナフレイバーだけ37秒9という上りのタイムだけを見ても力が抜けていたことがわかります。  先行した2頭の2着争いは、4コーナー手前あたりでは、追いかけるワークアンドラブのほうが追い通しで、まだ手応えが楽だったファルコンビークがそのまま粘るかにも思いましたが、ワークアンドラブが最後に盛り返して2着に入りました。

2021年5月26日(水)2021川崎ジョッキーズカップ第4戦

優勝馬 シンキングポケット

 田中涼騎手(シンキングポケット)はスタートから気合を入れて行きました。逃げると決めていたか、そういう指示があったのでしょう。すんなりハナを取りましたが、1コーナーを回ったあたりで外から古岡勇樹騎手(タカラチーター)が競りかけてきました。向正面では古岡騎手が前に出ましたが、田中騎手も譲らない感じで2頭が競り合いになりました。後続の騎手たちはそのペースが速いと思ったのでしょう、3番手以下は大きく離れて縦長の展開になりました。  古岡騎手が3コーナー手前から離しにかかって、田中騎手はそれにはついて行きませんでした。直線でも古岡騎手が単独先頭で、そのまま逃げ切ったかと思いましたが、田中騎手がゴール前で差し切りました。たしかにゴール前は古岡騎手のタカラチーターも一杯になっていましたが、一旦離されたところから、田中騎手のシンキングポケットはよく盛り返しました。  古岡騎手は外枠でしたから、向正面で強引に先頭に立たずに、半馬身くらいの2番手でついていくべきだったと思います。そうすれば勝てたかもしれません。ただ逃げたのは調教師からの指示があったかもしれませんし、3キロ減量がある新人のうちは、こういう思い切ったレースをするのも悪くないと思います。古岡騎手は姿勢も崩れないし、騎乗姿勢がだいぶよくなってきました。  4コーナーを回るところでは神尾香澄騎手(ヨイチビーム)が3番手で、そのまま粘るような勢いでした。最後は山崎誠士騎手(コンステレーション)にクビ差交わされて4着でしたが、うまく乗っていたと思います。

2021年5月28日(金)ファイナルアンサー賞

優勝馬 トライアンフ

 ゴール前、ハナ差の接戦となった2頭は見事に追い込みが決まりました。勝った伊藤裕人騎手のトライアンフ、惜しくも2着だった神尾香澄騎手のアクートラッシュは、ともに後方からの追走でした。  前半は前2頭、拜原靖之騎手(デルマシャイヨー)に池谷匠翔騎手(グリターテソーロ)が競りかけてのハイペース。縦長の展開になって、最後の直線では前と後ろがごっそり入れ替わりました。  向正面中間あたりから、後方集団にいた川島正太郎騎手(キタサンシャドー)が動いていって、これに釣られるように位置取りを上げていったのが神尾騎手です。このタイミングで動いていったのはよかったと思います。伊藤騎手は3コーナーから馬群の中をさばいて動き出し、一気に外に持ち出しました。  4コーナーでは神尾騎手が先行集団の外に進路をとって、伊藤騎手はさらに大外を回してきました。ここは前にいた馬たちがバテて下がってきますから、外に持ち出したのは正解です。それにしてもゴール前での2頭の伸びは際立っていました。  神尾騎手のアクートラッシュはじりじりという感じで伸びていましたが、うしろから伊藤騎手のトライアンフが来て馬体を併せる形になったので、アクートラッシュはもう一度反応して伸びを見せました。もしこれが内外離れていたら、アクートラッシュはこれほど伸びることはなく、トライアンフがあっさり抜け出していたと思います。