コラム
佐々木竹見・王者の眼差し

佐々木竹見 プロフィール写真

佐々木竹見(ささき たけみ)

元川崎競馬所属騎手。“鉄人”の愛称で知られる国内最多勝記録・7,153勝をあげた日本を代表する名手。
現在は地方競馬全国協会の参与として騎手候補生である後進の指導を行うほか、競馬のPRのために各地のイベントなどにも出演している。

令和3年度第7回開催 戸塚記念 他

 9月13〜17日の開催では3歳馬による戸塚記念が行われました。ジャパンダートダービーを制したキャッスルトップの出走で注目となりましたが、残念ながら6着。ゴール前の接戦から抜け出した大井のセイカメテオポリスは重賞初制覇。鞍上は矢野貴之騎手でした。  恒例の川崎ジョッキーズカップ第8戦では、デビュー2年目の池谷匠翔騎手、古岡勇樹騎手がゴール前、馬体を併せての接戦となり、古岡騎手のイグレックがハナ差で先着しました。  開催最終日のメイン、かわさきミュートン記念は、山崎誠士騎手のバクハツが1番人気にこたえ2着に4馬身差をつける圧勝となりました。  今回はこの3レースについて、佐々木竹見さんにうかがいました。(インタビュー・構成/斎藤修)

2021年9月15日(水)戸塚記念

優勝馬 セイカメテオポリス

 キャッスルトップは1番枠に入ったので逃げるしかありません。その直後を御神本騎手のギャルダルがぴたりと追走していきました。1馬身差があるかないかの位置でプレッシャーをかけて行きましたから、逃げ馬には厳しい流れになりました。2100mという距離では普通なら1周目のスタンド前でペースが緩むところがあるのですが、そうはなりませんでした。御神本騎手は2番手でも逃げ馬を前に置いて、少し差を開けての追走でもよかったと思います。その厳しい流れで、前2頭を見ながらラチ沿いの絶好位につけたのがトランセンデンスの森泰斗騎手でした。  3コーナーでキャッスルトップが一杯になったところで、御神本騎手はそこから追い出して後続を離しましたが、少しタイミングが早かった。ゴール前で甘くなってしまいました。先頭に立ったところでもう少し我慢して、4コーナーを回ったあたりから追い出していれば押し切れたかもしれません。ただ、レースを見て言うぶんには簡単ですが、乗っている騎手にしてみれば、そう簡単なことではありません。  御神本騎手が追い出したのを見て、追いかけていったのがトランセンデンスの森騎手でした。結果的に、その追い出しでもタイミングとしては早かった。  その展開にうまくハマったのが、中団で脚を溜めていた矢野騎手のセイカメテオポリスでした。ゴール前、競り合う3頭を一瞬にしてとらえました。もともと能力があるので差し切れたと思いますが、それにしてもゴール前でギャルダルとジョエルの間、いいところが空きました。

2021年9月15日(水)2021川崎ジョッキーズカップ第8戦

優勝馬 イグレック

 1番人気だったジョウハリの池谷騎手はスタートで気合を入れて行く気を見せましたが、外から行く馬を行かせて3番手の一線、ラチ沿いに控えました。ただスタートで気合をつけたぶん、馬が行く気になってしまい、向正面あたりまで抑えるのに苦労していました。長手綱だったので、もう少し手綱を短く持ったほうがいいのかもしれません。  一方、古岡騎手は後方に控えての追走でした。向正面でも動いていかず、3コーナー手前から外を回って一気に仕掛けていきました。  池谷騎手は内で包まれたまま動くに動けず。それでも4コーナーを回ったところで内から2頭目のところが開いて、うまく進路ができました。そのままゴール前で抜け出しましたが、外からは古岡騎手も伸びてきて、馬体を併せてのゴール。池谷騎手のほうが優勢にも見えましたが、古岡騎手がハナ差とらえたところがゴールでした。  古岡騎手は、逃げても控えてもじっくり乗ってくるし、追い出してからも体がぶれないところがいいです。  池谷騎手のジョウハリは、道中馬群に包まれて馬がずっと行きたがっていました。負けたのはそのぶんかもしれません。うまく乗ってはいましたが、どこかで折り合いをつけていれば、最後まで抜かせなかったかもしれません。それでハナ差負けは仕方ありません。  それにしても若い二人のいい勝負でした。

2021年9月17日(金)かわさきミュートン記念

優勝馬 バクハツ

 断然人気に支持されていたバクハツの山崎騎手は、最初から余裕がありました。スタートしてすぐに抑えて、うしろから3番手。2コーナーを回るあたりでは隊列がばらけて縦長になりましたから、前はペースが速かったと思います。結果的に、2着に入ったイサチルルンルン(和田譲治騎手)も最後方からの追走でした。  山崎騎手はペースが落ち着いた向正面の半ばから位置取りを上げて行きましたが、3コーナー手前で内に入れて行き脚を緩めました。よほど自信があったのか、余裕があったのでしょう。勝負どころで仕掛けていくときは、外から位置取りを上げていくのが普通ですが、あそこで内に入れるのはめずらしい。前が詰まれば行き場を失う可能性もあります。  それでも4コーナーでは、2番手を追走していた今野騎手のゲイムスターが一杯になって下がりましたから、バクハツはそこに進路ができました。先頭に立ったら、あっという間に突き放して圧勝でした。タイム的にはそれほど速くはありませんが、このメンバーでは能力が違いました。上のクラスにいっても勝負になるでしょう。